金森 由博 (kanamori<AT>cs.tsukuba.ac.jp)
2017/1/26, ver. 1
主に CG やその周辺の情報系の学生を対象として、卒論・修論などの学位審査や学会発表の際によくある質問を挙げてみました。事前に質問を想定して準備し、よりよい発表の助けとなれば嬉しいです。また、学会発表などで座長さんが質問内容を考えるヒントとしても使えるかもしれません。
なお、ここに挙げているのはあくまでも「よくある質問」であり、研究の基本的な事項を確認する質問が多いです。発表を通じて聴衆の理解が深まれば、研究内容に応じた、より踏み込んだ質問が出てくるはずです。
※下記質問の 4 を除き、以下の質問を受けるということは、研究の根本的な内容がちゃんと伝わっていなかった可能性が高い。発表内容に改善が必要。
自分の研究と既存研究との違いを十分に伝えられていなかったということ。違いをもっと強調して説明する。
質問者は素朴な疑問から聞いているか、研究意義に疑義を持っているかのどちらかと思われる。いずれにしても、研究背景などでちゃんと説明しておくことが望ましい。研究の意義を否定されかねない重要な質問なので、具体例を挙げつつ、しっかり研究の意義・正当性を主張 (defense) する。
素朴な疑問から聞かれることもあれば、否定的なニュアンスで聞かれることもある。差し障りなければ、事情を説明することで研究により興味を持ってもらえるかもしれない。例えば、自分が研究対象に興味を持ったきっかけであるとか、研究室の共同研究の一環でやっている、など。
※以下を聞かれた場合も、大事な内容がちゃんと伝わっていなかった可能性が高い。発表内容に改善が必要。
万能な手法というものはなく、何かしらの前提・仮定があるはずなので、それを説明する。
前提・仮定とも関連付けつつ、どんなデータが入力で、何を出力するのか説明する。
例えば何かのシステムを開発したとして、それが専門知識や経験のあるプロ向けなのか、知識や経験のない素人向けなのかによってシステムの設計方針が大きく異なるはず。想定ユーザと、それに応じて工夫した点を説明する。
こちらも同じく何かのシステムを開発したとして、利用シナリオに応じて設計方針が大きく異なるはず。想定する利用シナリオと、それに応じて工夫した点を説明する。
用語の定義は明確にする必要がある。用語の意味するところがコロコロ変わったり、異なる概念のものを同じ用語で表したり、同じ意味なのに別の用語を使ったりすると聴衆は混乱する。定義は一貫させ、異なる概念のものには異なる用語を使い、同じ意味なら同じ用語に統一する。
下の評価指標とも関連。もし研究目標が性能向上なら終わりはないかもしれないが、例えば具体例として何が実現できたらひとまず OK だと考えているのかを説明する。
ゴールに近づいているかどうかを判断するには評価指標が欠かせない。定量的な指標 (数値的な改善) なのか定性的な指標 (できた/できなかった) なのか、計算で求まるのかアンケートなど被験者実験が必要なのか、などを答える。
本当は順を追って説明すべき内容を、時間の都合で端折ってしまうと、聴衆が話についていけないことがある。補足用の予備ページを用意しておいて、それを使って解説できるとよい。
質問の体を取ってはいるが、調査不足を指摘されている。調査不足を素直に認め、指摘に感謝の言葉を伝えるのがよさそう。
全体像がわかるような概略図を用意しておく。
「なぜ?」という質問が研究では非常に重要。代替案が考えられるなら、それらがなぜダメで、提案手法のような手順を取るのがいいのか説明する。予備ページを用意しておくのもよいかも。
スライド上のすべての数式の文字には説明をつける。
予備ページを用意しておいて、それを使って説明するのがよい。
質問する側からは質問しやすい項目。予め考えておく。オーダーが計算時間のグラフからも読み取れるなら、グラフも示しつつ答える。
最初に示されたイメージを抱いて話を聞いていると、結局それが達成できたのか気になる。最初に実現不可能な理想像を示してしまうと後で幻滅される。最初に提案手法に相応なイメージを示しておき、結果のところでそれを達成できたのを示せるとエレガント。
結果画像に拡大図をつけたり、図やグラフに「値が大きい/小さいほどよい」と注釈をつけたり、説明を書き込んだり、「◯倍速くなった/省メモリになった」など結論を書き込んだりして、言いたいことをわかりやすく示す。
理論的に既存手法ではダメだとわかっているならそれを説明し、完全にダメだと排除できないなら、結果を比較して示すのがよい。
比較は評価の際に非常に重要。特に競合する既存手法が存在するなら比較は必須。いろいろな質問に答えられるように準備し、必要に応じて予備ページも用意しておく。
質問する側からは非常に聞きやすい質問。簡潔に回答する。
これも質問する側からは聞きやすい質問。図表を示しながら答える。
提案手法の適用可能範囲についての質問。実験した結果があるならそれを示し、やっていないなら想像で述べる。
質問する側からは聞きやすい質問。ボトルネックはグラフや表を示しながら答える。
提案手法の制限・限界についての質問。予備ページに失敗する例とその結果を用意しておくと答えやすい。ただしあまり提案手法に対してネガティブなことを言い過ぎないこと。「こういう問題があるがこういう風にすればよくなるはず」と前向きな発言で締めくくる。
やり残したところをやりたいとか瑣末な機能改善の話より、理想的にはどういう風にしたいか、それを実現するにはどうしたらよいかを語る。