研究発表スライドについてのガイドライン

金森 由博 (kanamori<AT>cs.tsukuba.ac.jp)
2012/7/12, ver. 1

はじめに

研究成果を発表するときのスライド作りのガイドラインをまとめました。これは CG 分野の学会での発表を想定した基本の型です。あくまでも金森のスタイルなので、基本的には指導の先生の方針に従ってください。

スライドの基本構成

典型的なスライドの構成は次の通り。

  1. 研究の背景
  2. 関連研究
  3. 提案手法
  4. 結果
  5. まとめと今後の課題

発表資料の構成はテンプレ (お約束) に従った方が聴衆に安心して聞いてもらえる (論文も同様)。内容自体には独創性を発揮しても、構成はテンプレに従うのがよい。

1. 研究の背景

世の中や研究分野において、自分が取り組んだ研究にまつわる事情を説明。 聴衆がどういう人なのか (専門家なのか素人なのか、何に興味があるのか、など) を踏まえて、できるだけ聴衆がとっつきやすく同意を得やすい話から始める。 当たり前過ぎる話は冗長なので×(悪い例: 「近年インターネットの発達により…」)。

で、自分の研究をやるきっかけ・モチベーションとなったような、現状の問題点や課題を指摘する。 そして、では自分の研究ではどのように取り組むのか、所信表明をする。 例えば、何が目標なのか、何を実現するのか、など。「関連研究」のところでは、既存研究がその目標を達成できているか言及する。

所信表明が終わった段階でデモを見せておくと、聴衆の食い付きがよい。海外の発表ではよく使われる手。

2. 関連研究

既存研究と自分の研究とを比べ、どこが関連していて、どこが違うのか、明確にする。 既存手法と自分の手法との違い・優劣について、所信表明の時点で伏線を張っておく。 既存研究との関係が込み入っているなら、長所短所を表にまとめるのもよい。 その場合は自分の手法が一番よく見えるよう比較項目を工夫すること。

もし提案手法の前に説明が必要な基本手法・理論などがある場合は、この前後 (「関連研究」の最後 or 「提案手法」の冒頭) で説明する。

3. 提案手法

まずは手法の概要のページで、入力と出力は何か、前提は何かを明確にする。 以下、手法の手順に沿って説明していく。 全体像を示したページを適宜挟んでいまどこを説明していのるかを示す (※発表時間が 10 分前後など短い場合は省略) と、聴衆が「今どこを話しているんだっけ?」と迷子にならずにすむ。

提案手法の説明はどうしても話が込み入ってしまいがち。限られた時間内にスライドだけで全部伝えるのは無理なので、思い切って省略し「詳しくは論文を読んでください」というのも手。

4. 結果

冒頭の所信表明で示した目標を達成できたことを示す。 動画や図を使ってわかりやすく。動画は学会投稿用のオールインワンの動画ではなく個別の例ごとにバラした動画を見せる。

計算時間に関心がある研究の場合、どういうプログラミング言語・ライブラリで実装し、どういう PC 環境で実験したのか、についても軽く触れる。 データのサイズ (例: 入力画像サイズ、メッシュの頂点数) なども説明する。

制限事項についてもこの前後 (「結果」の最後 or 「まとめ」) で触れる。 あまり問題点ばかり強調し過ぎないこと。問題点を言いっぱなしにするのではなく「こうすればなんとかなるはず」といったフォローも入れること。

5. まとめと今後の課題

何をやったか「簡潔に」再掲する。所信表明で書いたことはここでも述べる。長文を書かずに箇条書きに。 今後の課題は質問されたら具体的にどうするのか説明できるように準備。

ノウハウ・注意事項

メリハリのあるわかりやすいストーリーに

問題提起とそれに対する解答を示すのがよい。話にメリハリをつける。 聴衆も人間なのでメリハリのない話は聞いていて退屈。

ページのタイトルと中身を一致させる

初心者はスライドの各ページのタイトルを適当につけてしまうことが多いが、そのページのタイトルと中身が一致していないと、聴衆を混乱させる。ページの内容を吟味し、適切なタイトルをつける。同じページ内に複数のトピックが混ざっていてタイトルを付けにくいのであれば、トピックごとにページを分ける。

長い文は書かずに簡潔に箇条書きに

スライド作りに慣れていない人は長文を書きがち。スライドは短時間しか目に入らないので、それでは聴衆が読み切れない。どんな情報を伝えたいのか整理・分解して、短文を箇条書きにする。

情報を構造化する

箇条書きで、大見出しの下に中見出し、小見出し…と書く場合は、情報の抽象度・重要度を意識する。要は新聞の見出しのように、情報の内容を端的に伝える語句を大見出しにし、その補足情報を中見出し、小見出しとする。

アニメーションで聴衆の視線を誘導

情報をアニメーションを使って小出しにして表示。ただし乱用すると鬱陶しいので注意。

「好きなところを見たいから隠さずに最初から全部出しておいてくれ」という人もいるが、誘導しないと聴衆は好き勝手なところを見ており、こちらの話はあまり頭に入らない。

「指し棒やレーザーポインタで指し示せばよい」という人もいるが、PC とスクリーンは離れていることが多く、指し棒は届かず、レーザーポインタは手ブレでまともに指せないし小さすぎて見えない。単に「この発表者は準備不足」と思われるのがオチ。

あまり視線を動かさなくてよい工夫を

図の下に付ける説明文 (キャプション) に、「◯◯の図 (左) ☆☆の図 (右)」というように「左を見ろ、右を見ろ」と指示を書く人がいるが、それでは説明文を見るたびに視線を動かさなければならない。これは論文など紙面が限られている場合の方法であって、論文のようにじっくり読める場合はよいが、スライドでは時間が限られるので不親切。

図や式の説明は、矢印や吹き出しなどを活用して、どれがどれを説明しているか一目で分かるように工夫する

一枚のスライドに情報を詰め込み過ぎない

一枚のスライドで伝えられる情報には限度がある。アニメーションで小出しにする方法もあるが、できるだけ簡潔に。例えば CG 分野で最高峰の SIGGRAPH のスライドには、大会場でも読めるように、ひとつのスライド内での行数、文字サイズについても指定がある。

最初の方にデモを見せる

発表の冒頭、あるいは提案手法の概要あたりでデモを見せておくと、聴衆の集中力が持続しやすい。

スタイルを統一する

スライドの中で、強調方法などのスタイルを統一する。例えばポジティブな情報は青字、ネガティブな情報は赤字にする、など。一定のルールに基づいて情報を提示することで、聴衆の頭に入りやすくなる。逆にスタイルが揃っていないと聴衆の注意を逸らし内容の理解を妨げることになる。

レイアウトを整理

ページごとにタイトルの位置が違う、画像の位置がズレている、などのレイアウトの乱れは、見ていて気になるだけでなく、その発表自体がいい加減で準備不足であるかのような印象を与えてしまう。例えば画像は、大きさや縦・横の位置をぴったり揃えて並べると、ページが引き締まって見える (参考: グリッドレイアウト)。

見栄えを美しく

フォント、色使い、デザインテンプレートや背景画像に美しいものを使うと、発表内容が洗練されている印象を与えられる。 基本的には、デザインテンプレートで予め用意されているフォント、色使いやレイアウトを使うのが無難。

フォントはセリフ体 (明朝やTimes New Roman など) よりもサンセリフ体 (ゴシックや Arial など) の方が見やすい。異なるサイズのフォントを使う場合は大きさに差を付ける (PPT の標準のサイズを選べば OK)。基本的にフォントはスライド内で一種類だけにする (数式は Times New Roman が好まれる場合もある)。背景画像を使う場合は、手前の文字が読みづらくならないよう工夫する。

画像や動画を多く使う

画像や動画を多用し、美しく、かつ、わかりやすいスライド作りを心がける。文字ばかりだと頭に入らないし退屈。

小さな文字は使わない

文字が小さすぎて読めなければ書いてあっても意味がない。読めたとしても文字が小さいと印象に残りづらい。 ひとつの基準として 18 pt 未満は避ける。20 pt 以上推奨。

スライドの下の部分には余白を入れる

スライドの下の部分は、聴衆から見ると前の席の人の頭で隠れて見えないことが多い。余白を取る。

なんでもかんでも強調しない

なんでもかんでもアニメーションにしたり四角で囲んだりして強調すると、結局どれが重要なのか聴衆に伝わらない。しかも下品に見える。 本当に強調すべき項目だけ強調する。

事前練習/本番での注意

必ず誰かに聞いてもらってリハーサルを

時間配分ミス、ストーリーの不備 (わかりにくくないか)、恥ずかしい勘違いがないかチェック。

「えー」とか言わずに間を開ける

言葉に詰まって「えー」などと挟むと聞いている方は耳障りで聞き苦しい。 言葉に詰まったら何も言わずに間を開ける。間を開けるのは人の注意を集めるという好ましい副作用もある。

発表のときは元気よくメリハリをつけて話す

話し方によっても、聴衆に与える印象、理解のしやすさがだいぶ違う。

スライドのサンプル

金森が海外での発表に使ったスライドのサンプル (英語)。だいたい上記のことを踏まえている (はず)。